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ナノエッグを知る、キーワードの泉

ドラッグデリバリーシステム(drug delivery system, DDS)

薬物療法(薬によって病気を治療すること)において「必要な薬を、必要な病変部に、必要なとき、必要量送り込むためのシステムあるいは技術」を指す。DDSの導入によって薬の効果を高め、副作用を減じることが可能となる。薬物療法においては必須の技術であり概念でもある。 DDS技術は薬物療法のみならず、機能性化粧品の開発や再生医療領域など多くの領域において今や必要な技術・概念と注目されている。

DDSということば

DDSということばは1960年代に使われ始めたが、DDSの概念そのものは1910年パウル・エールリッヒ(Paul Ehrlich、1854-1915、ドイツ)によって提唱された「魔法の弾丸(Magic Bullet)」にはじまるともいえる。 エールリッヒは細菌学者で化学療法の祖とされ1908年にノーベル医学・生理学賞を受賞している。 「魔法の弾丸」という言葉はエールリッヒが、梅毒の治療薬サルバルサンを開発した1910年に、人間への害は少なく感染症の原因菌だけをねらいうちする薬を説明するためのことばとして用いた。ちなみにサルバルサンの開発は当時留学していた秦佐八郎との共同研究成果である。

DDSとは

1)ターゲッティング、2)コントロールド・リリース、3)吸収改善の3つのカテゴリー(機能)からなる。各機能が完全に独立しているわけではなくクロスしていることが多い。 ターゲッティングとは病変部に薬を送り込むこと。例えば抗がん剤を癌組織に完全に選択的に送りこめれば薬の効果は著明に高まり、副作用が激減する。 コントロールドリリースとは薬を必要適切量放出すること。長時間効かせたい薬、短時間で効果を終了したい薬、持続的な放出(sustained release)が要求される薬など、望ましい放出パターンは薬物によって異なる。 吸収改善は各種のバリアー(表皮の角質バリアー、血液脳関門(blood brain barrier)、腸管吸収における腸管膜など)の通過、吸収を調節することによって薬の効果を最大限引き出そうとする技術。

エビデンス・ベイスド・メディスン(Evidence Based Medicine)

科学的データ(臨床試験や基礎試験のデータ・証拠)に基づいた医療をいう。近年ではエビデンス・ベイスド・コスメティックス(Evidence Based Cosmetics)という造語も使われるほど化粧品領域でも科学的データの裏づけが求められるようになってきている。 IT技術の発展と普及により消費者が多くの情報を知る結果となり、広い領域で科学的データの裏づけが要求される時代となっている。

ナノテクノロジー

長さの単位はメートル(m)を基準に名づけられている。
センチメートル(cm)  1mの100分の1の長さをいう
ミリメートル(mm)   1mの1000分の1の長さをいう
マイクロメートル(μm) 1mの1000000分の1の長さをいう
ナノメートル(nm)    1mの1000000000分の1の長さをいう
 
ナノテクノロジーとは1mの10億分の1の長さすなわち1mmの100万分の1という非常に小さいサイズのものを利用する技術、あるいはナノサイズ化する技術全体をさす。ナノサイズとは厳密には1~1000nmである。ナノサイズ化することによって普通のサイズでは通過できない生体中のバリアーを通過することができるようになる。医薬品開発、診断技術、化粧品開発にとっては重要な技術である。

ナノテクノロジーとクリントン大統領

ナノテクノロジーという言葉が一般に脚光を浴びるようになったのは、2000年1月アメリカのクリントン大統領(当時)が発表したNational Nanotechnology Initiative(http://www.nano.gov)が一般の新聞にも掲載されたことから日本でも盛んにこのことばが用いられるようになったという経緯がある。この報告書ではITにおけるナノテクノロジーの重要性が盛り込まれているとともに、医療域においては「数個のがん細胞の検出(診断)目標」が上げられている。

ナノメディスン

2003年ヒトゲノム解読完了宣言をうけて、アメリカのNIH(National Institutes of Health、日本の厚労省にあたる)が提出した「Roadmap for medical research in  the 21th century」の中で用いられた言葉。ヨーロッパでも2005年Europe Science Foundation (ESF)が「ESF Forward Look on Nano-medicine」を提出した。ナノテクノロジー、バイオテクノロジーが融合したナノバイオサイエンスを駆使した医療(治療・診断)や創薬をいう。医療や創薬はもともとナノバイオサイエンスであるが、ナノメデイシンという言葉には「よりハイテクでより遺伝子レベルのバイオロジーの導入」の意図が含まれているといえる。

薬のサイズと生体内動態

薬物が血液に送り込まれたとき、薬のサイズがその薬物の生体内動態(ヒトの体内で代謝されるまでにかかる時間やどの臓器に分布するか)を決定する要因のひとつとなる。すなわち毛細血管(最狭部分の直径は約5μm)を安全に通過するためには薬物サイズは1μm以下であることが望ましい。かつ約3 nm以下では容易に腎臓ですぐに排出され、400 nm以上では肝臓などの細網内皮系に捕捉(とらえられて薬が効かなくなること)されやすい。このような背景において血中動態をコントロールするために化学修飾や薬のキャリアーを工夫することになる。またアルブミン(分子量68000、4 nmサイズ)は腎臓での排出を受けないので、アルブミン結合性を薬に付加することも血中滞留性を高めるひとつの方法である。いずれもDDSの手法である。

経皮吸収システム(Transdermal system, TDS)

薬の投与経路のひとつ。皮膚に塗布して表皮通過させる投与方法。経口投与と並んで簡便なことからコンプライアンスが高い。表皮の角質がバリアーとなっていることから角質を通過させる工夫、システムの導入が必要である。
コンプライアンス:遵法性、上記の場合では指示通り忘れずに薬を飲んだり、貼ったりすること。

キャリアー

DDSにおけるキャリアーとは薬を病変部に運ぶもの〔薬の担体〕。リポソームやリピッドマイクロスフェアーが有名。遺伝子のキャリアーをベクターと呼ぶ。
腸溶性カプセルは胃では溶解せず腸で溶解するので、薬を腸まで運ぶキャリアーといえる。

QOL(quality of life)

生活の質をいう。人生の質といい換えることが出来る。高齢化社会といわれる現在、薬は生命維持だけではなく、QOLを高めることが大きな目的になった。

両親媒性

水にも油にも両方に溶解する性質のこと。

GCP(good clinical practice)

決められた一定の条件を満たした臨床治験。医薬品の認可に用いるにはGCPデータの必要がある。

投与部位・投与法による薬の分類

注射剤:静脈注射、動脈注射、筋肉注射、皮内注射、皮下注射
経口剤:(形状による分類;カプセル剤、錠剤、粉末剤、シロップ剤、液剤)
経 皮:(軟膏、硬膏剤、パップ剤、液剤)
経肺、経気管
経 膣:(軟膏、錠剤、坐剤)
口 腔:(舌下錠、バッカル錠)
経鼻粘膜:点鼻、軟膏
点眼、経結膜
点耳
尿 道:坐薬、液剤
直 腸:坐薬、軟膏、液剤

アリナミン

よく知られるアリナミンはビタミンB1誘導体のプロドラッグでDDS製剤。腸から吸収されて血中に入ってビタミンB1になり、効果を発揮する。第2次世界大戦終了直後、食料事情の悪かった日本では脚気の患者さんが多かったが、同じ食料事情にあった韓国では脚気が少なかった。これをキムチを常食することに起因するのではないかと考えた日本の研究者がにんにく成分のアリシンと結合させたB1誘導体を開発した。その後、改良を重ねて今日のアリナミンになっている。

プロドラッグ

そのままでは薬理活性がなく(あるいは弱く)生体内で酵素などによって活性体となり、薬理効果を発揮する薬のこと。

ES細胞(embryonic stem cells)・胚性幹細胞

受精卵は細胞分裂し4~5日で胚盤胞に成長する。その内腔の内細胞塊の細胞がES細胞で多能性を持つ。多能性とは細胞培養条件を選ぶことによって、心臓・肝臓・腎臓などあらゆる臓器の細胞に分化しうること。ESを再生治療に使用することにおいては、人に成長する可能性をもつESを使用することに対する倫理的問題が残ることと免疫拒絶も否定できない。

人工多能性幹細胞(iPS;inducible pluripotent stem cells)

体細胞に4つの遺伝子を導入することによって作製された人工万能細胞。ESのような倫理問題がなく、かつ免疫拒絶も回避できることから再生医療などへの実用化が現実味を帯びてきた。2007年日本の山中伸弥博士らのグループがヒト皮膚繊維芽細胞に4つの遺伝子(OCT3/4, SOX2, Klf4, c-Myc)を導入して樹立した。画期的な成果が話題を呼んでいる。その後、c-Myc遺伝子なしでも樹立可能であることが報告された。
同時期にアメリカのThomsonらのグループも(OCT3/4, SOX2, NANOG, LIN28)の4つの遺伝子を導入することでヒトiPSを樹立している。

活性酸素

半減期が短い酸素のことで、反応性が高いことから活性酸素と呼ばれる。多くの活性酸素は不対電子(ラディカル)を持つ。生体内で反応性が高いことから活性酸素が多くの疾患の原因となっている。いっぽう活性酸素は生体において殺菌の役割を果たすことや種々の細胞のメディエーターとしての重要な役割を担っている。活性酸素が「両刃の剣」といわれる所以である。

SOD(スーパーオキシドディスムターゼ) 

活性酸素のひとつであるO2-(スーパーオキシドアニオン)を消去する酵素。医薬品としての可能性が期待されている。

リポソーム

リポソームは脂質2重膜を持つ人工脂質小胞で1965年Banghamによって発見された。人工細胞膜モデルとしてあるいはDDSのキャリアーとしての研究が盛んに進められている。

リピッドマイクロスフェアー

リピッドマイクロスフェアーは大豆油の周りにレシチン脂質1重膜を持ち、水溶液中でoil in water型エマルションとなる。臨床上で栄養補給剤として用いられてきた。 リピッドマイクロスフェアーを薬物キャリアーとして利用したリポ剤が日本発のDDS製剤として有名である。